子どもたちの闘病にやさしく寄り添う犬たち-ファシリティドッグ-
毎朝9時30分になると、ラブラドルレトリバーのアイビーが東京都府中市にある都立小児総合医療センターへとやって来ます。
アイビーは、「ファシリティドッグ」として医療現場で活動しており、スタッフの一員として子どもたちを支えています。
近年は病院で生活する子どもたちの心身を支える動物たちが増えているそうです。
(※2025年3月5日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
アイビーとの出会いがくれた力、入院生活を支えた絆とは
2022年10月21日の夜、小竹愛依(めい)さん(11歳)は急性リンパ性白血病のため、緊急で入院しました。
入院から4日後、病室を訪れたのは、黒くつぶらな瞳とつやのある毛並みが印象的なラブラドルレトリバーのアイビーでした。
「かわいい!!」という声が自然とこぼれたその瞬間から、アイビーは愛依さんにとってかけがえのない存在となりました。
抗がん剤の副作用でおなかの痛みに苦しむ日には、何も言わなくてもアイビーがそっと頭を愛依さんのおなかに乗せて寄り添ってくれました。
体調の良いときには、手作りのおもちゃを使って一緒に遊ぶこともありました。
「アイビーが来ると、幸せの時間が始まるような気持ちでした。アイビーがいてくれたから、つらい入院生活も乗り越えることができました」と振り返ります。
約10か月にわたる闘病の末、愛依さんは無事に退院を迎えることができたそうです。
子どもたちの心に寄り添う存在、ファシリティドッグ・アイビーの軌跡
病院や特別支援学級など、特定の場所で活動する犬は「ファシリティドッグ」と呼ばれています。
この役割を担うアイビーと日々を共にするのが、ハンドラーの大橋真友子さんです。
大橋さんは16年間看護師として勤務した後、専門的なトレーニングを受けてこの職に就きました。
ファシリティドッグになるためには、生後2か月頃から訓練を開始し、およそ2年間にわたって厳しいトレーニングを積み重ねます。
役割は幅広く、リハビリの支援や、検査・手術への付き添いのほか、時には家族と一緒に患者の最期を見届けることもあります。
「アイビーが持つ特別な力は、子どもたちの感情と自然に寄り添えることです」と大橋さんは話します。
教え込まれたわけではなく、子どもの様子を見て、今は一緒に遊ぶべき時か、それとも静かにそばにいるべき時かを自ら判断できるといいます。
広がる癒やしの輪。日本でも活動が進むファシリティドッグ
NPO法人「シャイン・オン!キッズ」によれば、ファシリティドッグは2000年頃から主にアメリカで導入され始め、今では世界中で2,000頭を超える犬たちが医療や福祉の現場で活躍しています。
日本においては、2010年に静岡県立こども病院が最初に取り入れたのをきっかけに、現在は全国で4頭のファシリティドッグが活動しています。
このNPO法人には、近年「うちの病院にも導入したい」との相談が相次いでおり、これまでに数十か所の医療機関から問い合わせが寄せられたそうです。
現在は8つの病院と具体的なやりとりが進められています。
高いハードルは資金面。広がる期待と導入の動き
ファシリティドッグの導入において最大の課題となっているのが費用の問題です。
1年間で必要となる経費は、ハンドラーの人件費やえさ代などを含めて約1,000万円に上り、初年度は研修費なども加わるため、総額で約2,000万円が必要とされています。
かつてはNPO法人側が全額を負担していましたが、最近では病院側も一部を負担するケースが増えてきました。
ただし、診療報酬制度の対象外であることから、多くの医療機関が資金の確保に苦慮しているのが現状です。
それでも、子どもたちの精神的な支えとしての価値が認識され、高額な費用を理解した上で導入に踏み切ろうとする病院が増えています。
東京都立小児総合医療センターでは、2頭目の導入を目指してクラウドファンディングを5月14日まで実施しています。
(https://readyfor.jp/projects/TMCMC-FD2025)
また、「シャイン・オン!キッズ」では、ファシリティドッグが将来的に保険適用されることや、小児がん拠点病院の基準の一つとなることを目指し、導入実績を増やして国への提言を進めていく方針です。