英国が乳幼児の糖分摂取を制限する動き-肥満率の増加が社会問題に
英国が乳幼児の糖分摂取を制限する動き-肥満率の増加が社会問題に
砂糖が日常生活に深く根付いてきた英国では、季節のお菓子を紅茶と一緒に味わう「アフタヌーンティー」の文化が象徴的です。
しかし近年では、子どもの健康を守る観点から、糖分の多い食品への接触を減らそうとする取り組みや政策が次々と進められています。
いったいどのような背景があるのでしょうか。
(※2025年11月5日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
子どもの健康を守るために糖分規制へ
成人の肥満率が26%に達するなど、肥満は英国において深刻な社会課題となっています。
こうした背景を受け、英北部のスコットランドでは2024年8月から、保育園でチョコレートやあめなどの菓子類、さらにジュースの提供が全面的に禁止されました。
これは、乳幼児の栄養基準が見直され、糖分を含む飲食物の取り扱いがより厳格になったためです。
特に大きな話題となったのが、誕生日ケーキの持ち込み禁止という方針です。
英国では、子どもの誕生日に保護者がケーキを保育施設へ持参する習慣がありますが、政府はケーキ以外の形での祝い方を推奨しています。
一方で、このような規制に対して懸念の声も出ています。
在宅型の保育サービスを行う保育士からは、「家庭的な雰囲気づくりに影響が出るのではないか」といった意見も見られます。
スコットランド政府は、これらの措置について「肥満および関連する健康リスクの低減が目的です」と説明しています。
実際に2023年には成人の肥満率が過去最高の32%に達したと報告されています。
この問題はスコットランドに限らず、英国全体に共通する課題です。
経済協力開発機構(OECD)の2023年の統計によると、英国の成人肥満率は26%で、調査対象35カ国の中で米国の34%に次いで2番目の高さでした。これに対し、日本は5%と大きな差があります。
日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所の林伸光氏は、英国の食生活の特徴として間食の多さを指摘しています。
栄養管理アプリを提供する英国企業ZOEの調査では、1日の総摂取カロリーのうち約24%が間食によるものとされています。
これに対し、日本の厚生労働省の調査では、間食が占める割合は約7%にとどまっています。
英国では2000年代以降、脂肪・塩分・糖分を多く含む「HFSS食品(High in Fat, Salt or Sugar)」が問題視されてきましたが、砂糖への本格的な規制強化はここ10年ほどで進められてきました。
2018年には清涼飲料水産業税が導入され、飲料に含まれる糖分量に応じて製造業者や輸入業者へ課税が行われています。
さらに、糖分の多い食品や飲料については、スーパーのレジ周辺での陳列やまとめ買い割引の実施も制限されるなど、子どもを含む消費者の過剰摂取を抑える取り組みが段階的に強化されています。
糖分規制の背景にあるのは格差や貧困?
政府が糖分に関する規制を強化している背景には、食習慣と健康状態が経済的な格差と密接に関係しているという認識の広がりがあります。
林氏によると、こうした考え方が政策判断の基盤になっているとされています。
実際にスコットランド政府も、栄養基準の見直しにあたり、低所得地域に住む子どもほど糖分の摂取量が多い傾向を示す調査結果を根拠の一つとして提示しました。
林氏は、HFSS食品は野菜や果物などの栄養価の高い食品よりも価格が低いことが多く、経済的に厳しい家庭の子どもほど摂取量が増えやすい傾向があると指摘しています。
そのため、子どもの食生活の見直しは単なる健康対策にとどまらず、社会的な格差の是正にもつながる政策として位置付けられているのです。
一方で、これらの規制は製造業者や小売業、さらには教育現場にも一定の影響を及ぼしているものの、消費者の食習慣が明確に改善したと示す十分なデータはまだ蓄積されていません。
肥満率の低下にどの程度結びつくのかについては、今後の統計的な検証を慎重に見守る必要があるとされています。
甘いものが持つ役割はある・・・倫理的に複雑
文化人類学者のイモジェン・ビバン氏は、スコットランドの家庭や学校における砂糖の消費について長年研究を行ってきました。
砂糖は比較的安価で、子どもに手軽に喜びを与えられる食品です。
祖父母が孫にお菓子を渡す場面や、子ども同士で甘いものを分け合う場面では、砂糖は人と人との距離を縮める存在として機能し、親しみやつながりを生み出します。
また、子どもは甘い食品との関わりを通して、自分の行動に責任を持つことや選択の善し悪しを学ぶ機会を得ています。
食品メーカーもこうした心理的・社会的な側面を踏まえ、商品開発や広告の設計を行っていると指摘されています。
教育現場においても、甘い食品は一面的な存在ではありません。
健康への影響については注意を促される一方で、チャリティー活動としてケーキ作りを行うことが地域社会への貢献として評価されるなど、相反する意味合いを持っています。
このように砂糖は単なる食品ではなく、倫理的に一義的に判断しにくい側面を持つ存在です。
摂取量は個人の意思だけで完全に管理できるものではなく、周囲との関係性の中で消費されることも少なくありません。
そのため、砂糖に関する政策を検討する際には、健康面だけでなく、こうした社会的・文化的な役割も踏まえた視点が求められます。





















