妊婦への解熱剤「自閉症と関連」は根拠なし
自閉スペクトラム症(ASD)は、「状況に応じた対人対応が難しい」「特定の物事へのこだわりが強い」といった特徴を持つとされています。
こうした中、米トランプ政権は9月に「妊娠中の解熱剤使用が自閉症と関係している可能性がある」とする見解を公表し、医学界から強い反発が起こりました。
この発表にはどのような問題点があるのでしょうか。
(※2025年12月14日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
科学的根拠に乏しい見解とその影響-アセトアミノフェンをめぐる議論
米政府は、解熱鎮痛薬に含まれるアセトアミノフェンが子どもの自閉症の要因となる可能性があるとして、妊婦への使用をできるだけ控えるよう呼びかけました。
しかし、これに対して世界保健機関(WHO)や米国産科婦人科学会は、現時点でその関連性を裏付ける十分な科学的根拠は確認されていないとする見解を示しています。
日本でも、この発表から4日後の9月26日に日本自閉スペクトラム学会が懸念を表明しました。
同学会の理事長であり信州大学教授の本田秀夫氏は、
「ASDは先天的な脳神経の特性と、家庭や学校、職場などの環境要因が複雑に関わり合うことで社会生活に影響が生じる状態と考えられています。これまでにも特定の物質や薬剤との関連が指摘されてきましたが、いずれも決定的な証拠には至っていません」
と説明しています。
今回の米政府の見解は、特定の研究論文を根拠としていますが、学会によると、アセトアミノフェンとASDの関係については肯定的な結果と否定的な結果の双方が存在し、結論は一致していません。
一方で、アセトアミノフェンは胎児への影響が比較的少ないとされ、妊娠中の発熱や痛みの緩和に広く用いられています。
妊娠中に高熱が続くこと自体が、子どもの神経発達に影響を及ぼす可能性も指摘されており、「発熱を放置するリスクの方が大きい場合もあります。
必要に応じて医師と相談のうえ使用することが重要です」と本田氏は述べています。
さらに、米政府はワクチンとの関連性にも言及しましたが、ワクチンに含まれるチメロサールや麻しんなどに対するMMRワクチンと自閉症の関係については、過去の大規模研究によってすでに否定されています。
学会も、ワクチン接種を控えることによる感染症リスクの増大を懸念しています。
根拠なき治療論と広がる懸念―ASDを巡る情報のあり方
米政府は、自閉症の治療に「ロイコボリン」という薬剤が有効である可能性を示しました。
ロイコボリンは、ビタミンの一種である葉酸の活性型製剤です。
しかし、専門学会は「標準治療として推奨できるだけの科学的根拠は現時点で確認されていない」と指摘し、「当事者や家族に過度な期待を抱かせるおそれがある」と懸念を示しています。
さらに声明では、
「今回の見解はいずれも現在の科学的合意に基づくものとは言えず、適切な医療や支援から当事者や家族を遠ざけてしまう危険性がある」
と強く警鐘を鳴らしています。
今回の発表は、公衆衛生上のリスクとは別に、社会的な影響も懸念されています。
過剰に予防を重視する内容は、結果として偏見や差別を助長する可能性があるためです。
実際に発表後には、「ASDの人は社会に存在してはいけないと言われているように感じる」といった当事者の声も寄せられているといいます。
本田氏によると、日本では小学校高学年までに約5%、つまり20人に1人程度がASDと診断されています。
決して珍しい存在ではなく、重要なのは「どう防ぐか」ではなく「どう支え、理解するか」という視点です。
早期に気づき、適切な支援を受けることで、社会で活躍している人も増えています。
また、発達特性は必ずしも短所だけではありません。
例えば、人との関わりを苦手とし1人で過ごすことを好む傾向は、「自立心が強く、周囲に流されない強さ」として捉えることもできます。
米国保健福祉省(HHS)のケネディ長官は、これまでも自閉症の診断数増加に懸念を示しており、今後も同様の見解が発信される可能性があります。
本田氏は「当事者や家族を心理的に追い詰める恐れがあり、看過できない問題です。
学会として正確な情報を発信し続ける責任があります」と述べています。























